
注目すべき見どころのひとつは、両作家による本展のための新作である。山城は、沖縄、パラオ、東京大空襲の記憶を映像で結び、語りや歌、祈りを交えた映像インスタレーションを展開。仮設小屋のような舞台空間を通じて、記憶が土地や時代を越えて共鳴し合う場が生み出される。
いっぽうの志賀は、宮城県北部で多義的に使われる言葉「なぬもかぬも」を手がかりに、東北地方における海と陸の関係性や、震災後の物流・復興を巡る物語を写真で描く。全長約4メートルに及ぶ写真絵巻が会場全体を横断し、観る者の身体感覚を巻き込む没入型の展示空間を構築する。

両作家はこれまでのテーマをさらに深めると同時に、石橋財団のコレクションと対話することで、作品に新たな文脈を付与する。本展は、ポストトゥルースの時代において、私たちが過去とどう向き合い、いかに語り継ぐかを問い直す契機となるだろう。中心と周縁、事実と記憶、芸術と現実が交錯する場として、美術館の新たな可能性を提示する企画として注目される。
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