国宝7軀が集結。奈良・興福寺北円堂の空間を再現する特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」が東京国立博物館で開催へ【2/2ページ】

 弥勒如来坐像は、鎌倉復興後の北円堂本尊として造立された。写実的な表現を極めた運慶一門による傑作であり、堂々たる存在感と静けさを兼ね備えた姿は、鑑賞者に深い祈りの空間を想起させる。

運慶作 国宝 弥勒如来坐像 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵

 脇侍の無著菩薩立像は、老僧のリアルな姿で、法相宗の根幹となる唯識思想の担い手であるインドの僧を象徴的に表現している。深い精神性と写実力が融合した日本彫刻史上屈指の名品と評価されている。いっぽう、弟にあたる世親菩薩立像は、壮年の姿で未来を静かに見据える眼差しが特徴的であり、弥勒の来迎を待つ信仰心が体現されている。

運慶作 国宝 無著菩薩立像 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵
運慶作 国宝 世親菩薩立像 鎌倉時代・建暦2年(1212)頃 奈良・興福寺蔵

 四天王像は現在中金堂に安置されているが、運慶一門によって北円堂再建時に造立された可能性が高いとされている。静的な弥勒如来や菩薩像とは対照的に、躍動感にあふれた造形が力強さと美を伝えており、展示空間ではその対比の妙が際立つだろう。

 通常は非公開である北円堂に安置された国宝仏を、まとまった形で目にできる機会は極めて限られている。運慶の到達点とされる彫刻表現を間近に体感し、日本仏教彫刻の真髄に触れるまたとない機会となる本展をぜひお見逃しなく。

編集部

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