3階には、鴨治の親友であった佐々木の自死に言及する「佐々木の月」シリーズや、1945年の広島への原爆投下にまつわるインスタレーション《ヒロシマ》(1990)、そして4階には表現を通じて「世界の本質に触れたい」という鴨治による《二つの極》(1972)や近作の「俳句」シリーズ(2023)が整然と並ぶ。地面に向かって真っ直ぐに引かれた直線や置かれた石、それらが織りなす空間。すべてが鴨治によって見定められた「正しい位置」に配されており、鴨治の表現者としての「唯一の目的」がそこにはあるという。
《二つの極》の制作にあたって心に留められていた「不必要な物で全体が混乱しないように」という言葉は、鴨治の態度を示すものとして同展のタイトルにも使用されている。


2階から4階のすべてのフロアには、様々な物体と金属板がアーチでつなげられた「静物」シリーズが点在。「物の声を伝える装置」と鴨治が呼ぶこのアプローチ方法は、まさに鴨治の制作態度を示しているかのようでもある。

本展の開催にあたり生まれ故郷である東京に戻ってきた鴨治は、次のようにコメントした。「このたびワタリウムで個展が開催できることは自分にとって大きな喜びだ。1950年に日本を離れて以来、初めての日本での個展となる。この展覧会が日本とポーランドの交流の活性化となれば幸いだ」。
長年ポーランドの日本人アーティストとして活躍し、日本での発表機会にあまり恵まれなかった鴨治晃次ではあるが、同展は、ポーランドの地で長年にわたって制作されてきた膨大な作品のなかから「鴨治晃次とは何者か」を示すためにセレクトされた最重要作品から作品が並んでいる。そして、その様相は各々違えど、根底に通ずる鴨治の精神性をも端的に伝えてくれている。

なお、会期中には、ギャラリーツアーや対談など多数の関連イベントが実施される予定となっているため、こちらもあわせてチェックしてみてほしい。