「創造と破壊の閃光」(GYRE GALLERY)開幕レポート。草間彌生と3人の作家が生み出す新たな対話に注目【3/3ページ】

 草間と坂上の接点はどこか。それは、1993年に世田谷美術館で開催された「日本のアウトサイダー・アート」展にあるという。ここで2人はアール・ブリュット作家として紹介された。アール・ブリュットという分類の危うさについては下記の記事(*)を参照していただきたいが、制作をすることと生きることが直結した、生き様がそのまま作品となるような2人の作品からは、どのような目線や感情、そして制作への向き合い方が読み取れるだろうか。

 会場では、紙を支持体としたドローイングが多い坂上の、ペインティング作品が4点展示されるといった貴重な機会にもなっている。

展示風景より、坂上チユキによる作品群
展示風景より、手前は坂上チユキ《我等を試みに 引き賜わざれ Ⅲ 天を突き刺す思いで》(2016)

 谷原は、日本近代絵画史に見られる「くらい絵」の系譜を、自身の体験を描きながらにして受け継ぐ作家だ。プレビューに参加した谷原は、今回の展覧会や出展作品について次のように語る。「自分では及ばない方々とのコラボレーション。この機会に際し、自分なりに3点の新作を制作した。小作品2点《愛惜の部屋》《蝋燭の火を消さなければ》では、“不安”を、つまり自分が感じたしがらみやトラウマを表現した。また、大型の円形作品のタイトルは《方舟は現れない》。タイトルは絶望的だが、逆にどこまでも自由な海は広がるといったニュアンスも含まれている」。

 キャンバスではなく、ベルベットの布地に油彩、さらにはグリッターやスパンコールなどを用いながら描かれる谷原の絵は、幻想的でありながらもどこか深く重い感情を呼び起こすことにも作用する。抽象的ではあるものの強烈なメッセージ性をふんだんに含む草間作品とどのように呼応するのか、会場でぜひ味わってみてほしい。

展示風景より、谷原菜摘子《方舟はもう現れない》(2025)
展示風景より、左から谷原菜摘子《愛惜の部屋》(2025)、《蝋燭の火を消さなければ》(2025)

 最後に、本展のタイトルである「創造と破壊の閃光」とは、フランスの哲学者フェリックス・ガタリにようテキスト「草間彌生の豊饒な感情」からの引用だと飯田。出展作家のなかでも若手作家として参加する谷原、そしてこの展覧会に足を運ぶであろう次世代はこのメッセージをどのように受け取るのだろうか。それも長い年月の果てに知ることとなるひとつの見どころと言えるだろう。

*──「櫛野展正連載27:アウトサイドの隣人たち(番外編) アール・ブリュットという『誤認』」(文=櫛野展正)、2018年12月21日。https://bijutsutecho.com/magazine/series/s6/19030、「アール・ブリュットの誤読と課題、そして可能性。山田創が語る『つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人』」(文=山田創[滋賀県立美術館 学芸員])、2024年6月15日。https://bijutsutecho.com/magazine/series/s34/29066

編集部

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