例えば《蛍》(1913)は、蚊帳を吊った女性がふと蛍の存在に気づく瞬間をとらえた名作。喜多川歌麿の浮世絵《絵本四季花(上) 雷雨と蚊帳の女》をヒントに描かれたとされるものであり、足の指の長さは曾我蕭白の美人図と類似性を持つと指摘されている。

《新蛍》(1929)も同じく蛍を描いたもので、1930年にローマ日本美術展覧会で出品された来歴を持つ。

大作《砧》(1938)は第二回新文展の出品作で、松園作品のなかでももっとも大きなサイズのひとつ。40代以降、能を題材とした作品を得意としていた松園。世阿弥作の「砧」に由来する本作は、夫の帰りを待つ妻の姿を、等身大とも言える大きさで描いた。巨大なサイズではあるが、その筆は寸分も狂っておらず、松園の力量をまざまざと実感させられる。

文化勲章受章の年に描いた《庭の雪》(1948)は、《牡丹雪》(1944)、《杜鵑を聴く》(1948)と並んで展示。雪が散るなかで身を縮める姿をみずみずしくとらえているこの作品。73歳で描いたとは思えない表現の繊細さに注目してほしい。
