第3章「大装飾画への道」の展示室が、冒頭で中山学芸員が触れた「楕円形の部屋」だ。睡蓮の池を描いた巨大なパネルで楕円形の部屋の壁面を覆うという、モネが長年にわたり追い求めた装飾画の計画はのちに実現し、画家の死後、パリのオランジュリー美術館に設置されることになったのだが、その過程でおびただしい数の作品が手がけられた。画面のサイズは、1909年までに手がけられた作品の画面より、面積にして4倍を超えるまでに至る。作品の巨大化に応じて広大なアトリエを建設し、戸外で描かれた習作をもとに、ときとして幅4メートルにも達する装飾パネルの制作に取り組んだ。

マルモッタン・モネ美術館でコレクション部長を務めるシルヴィ・カリエは、「巨大なパノラマ画面による大装飾画を探究するプロセスで手がけられた習作の数々から、具象と非具象芸術のあいだにおけるモネの逡巡を際立たせるセレクション」と同章の展示作品について話す。自然の風景の印象とその記憶から、画面を再構成する印象派の制作から展開し、その印象をもとに新たな環境を装飾画で生み出す、いわば「印象派の極地」とも呼べるような表現の探究だといえるだろう。睡蓮の池を描いた作品の数々だが、柳や地面が画面に描かれたもの、水面の映り込みで柳が見えるものなど、画面構成の要素を見比べてモネの画面づくりへの想像が膨らむ展示だ。


