加藤作品の新たな解釈──生命を纏うモードへ
こうして、加藤泉の作品からインスピレーションを受けたANTEPRIMA2025-26年秋冬コレクションは、「パラドックス」を主要テーマに展開されている。未加工の素材と手作りの素朴さを残しながら、加藤の有機的な形態や色彩を取り入れ、物質性と精神性、現実と幻想などが交錯する。ランウェイの奥には加藤の描いた像が人間と同じくらいの大きさのライトボックスとして立ち並ぶ。彼がドラムを務める「THE TETORAPOTZ」の楽曲が、イタリア人DJのSimone Lanza for Glos – Global Language of Sounds によってリミックスされ、総合芸術としても力強いショーとなった。
荻野いづみは、同コレクションを4つのコンセプトで語る。まず、その世界観を「Modern Primitive」と呼び、アンテプリマのDNAであるクラフトマンシップを再考し、異なる素材や技術を混在させた。「New Kawaii」では、荻野が加藤の作品に初めて触れた際の違和感が、家の壁に掛けて見ているうちに愛らしさへと変わった体験を反映。じわじわと心に浸透してくるような加藤の描くモチーフを取り入れつつ、ジェンダーや年齢を問わない「Uni Sex」なスタイルを提案。「Wearable art」として、加藤のアートを刺繍などの職人技でも表現し、服が作品として長く愛されるようにという願いも込めた。
具体的には、深みのある自然色を基調に、サビア(明るい茶色)、カーキ、ウィンターイエロー、ブルーやダークブラウンが使われ、チェリーラッカーやディープパープルが神秘的な雰囲気を醸し出す。ベージュやライトピンクは温かみとノスタルジックな感覚を強調。素材は、カシミア、ベルベット、ヴィスコンパクトを中心に、フリースやナイロンなどのテクニカル素材、モヘアやブークレ、ドッピア、フェルトボイルウールなども併用。加藤の絵画や彫刻がしばしば二つ以上の画面を縫い合わせたりオブジェを並べて構成されたりしていることにも注意しながら、その世界観を立体的に表現するため、シルエットの変化やポルカドット柄、異なるテクスチャー表現を取り入れ、遊び心と反骨的なムードも加えた。

ショーで発表されたプロトタイプは、コート、ジャケット、アウターが20点(うち加藤によるアートワークを直接取り入れたものは2点)、ジャケット、ドレス、ジャンプスーツが9点(2点)、トップスが51点(9点)、ボトムスが23点(3点)。また小物では、人気のバッグ展開が29点(19点)のほか、手袋、スカーフ、ベルト、イヤリング、ソックス、シューズまで揃えた。荻野は加藤の普段着姿にも注目し、アーティストの風貌までもコレクションに反映している。ウィメンズのモデルたちも時にオーバーサイズの服をさっそうと纏い、日本の神話に登場する両性具有神のようにも見えた。通常静止している絵画や彫刻作品と異なり、動きだしたアートに混じって最後に登場した加藤本人の姿も含め、見る側の反射神経も試されるようだった。

