鳥だけじゃない、古邨の魅力
鳥を愛した古邨だが、もちろんほかの動物たちも見事な描写で表している。虎や鹿といった大型の動物から、猿や狐のユーモラスな姿、鮭などの魚類や蛙などの水生生物、蝶や虫まで。「水の生き物」「動物」の章では、こうした生物にもそそがれた古邨のまなざしに触れる。


鳥も含め、古邨の写実の力とともにすばらしいのは、彫師・摺師としての技だ。羽毛や獣の毛並みの重なりや柔らかさ、月夜の風情や水のたゆたい、蝶の羽や花弁のひとひらなどの表現。その繊細な彫りは、ぼかし摺りや木目を生かした摺り、あるいはきめ出しや空摺りといった高度な技術があればこそだ。まさに、浮世絵版画の醍醐味と言える。

同時に、江戸時代には見られなかった鳥や花が多く含まれることも注目だ。エメラルドブルーやピンクなどのパステルカラー、鮮やかな黄やオレンジなどの色彩とともに、そこには近代ならではの要素が見いだせる。構図や画の雰囲気も、古来の花鳥画から、近代絵画のエッセンスをはらんでいく様子が感じられるだろう。

