宗達派から学び展開したもの:燕子花図屛風の章
群青と緑青だけで描かれた燕子花の群生が金地にリズミカルに浮かび上がる《燕子花図屛風》。特別な注文で制作されたという屛風は高品質な絵具が贅沢に使用され、いまも鮮やかだ。左右の対照的な構図は、装飾的であると同時に空間性をも獲得し、一見単調な花は植物としての質感を失っていない。シンプルかつ意匠に富んだ一作は、日本美術史上のみならず、デザイン史上においてもいまなお多大な影響を与えている尾形光琳の最高傑作だ。

工芸デザイナーでもあった光琳は、じつは絵師としては遅まきのスタートだったが、40代半ばに制作した本作が最初の到達点といえる。京呉服の店に生まれた環境ではぐくまれたセンスが最大限に活かされると同時に、そこには私淑した俵屋宗達とその工房の作品が持つ装飾性が引き継がれている。
宗達工房の作と考えられる雅(みやび)な《桜花蹴鞠図屛風》、大胆な構図で謡曲に謡われるシーンを印象深く表した光琳作の《白楽天図屛風》、宗達や光琳の影響を感じさせる『源氏物語』の場面を描いた《浮舟図屛風》とともに、文学的素養を楽しみ、それを画にすることを好んだ、時を超えた琳派の共鳴に、光琳が獲得し、展開したものを改めて確認する。

