異才? 奇才? 個性の発露:夏秋渓流図屛風の章
光琳を敬愛し、彼の業績をまとめながら自身の画に取り込んで「光琳派」を創始した酒井抱一の門下で、その後継となった鈴木其一。師の死後、其一はその瀟洒な画風から離れ、改めて光琳や京都狩野派にさかのぼって独自の画風を模索する。その成果が《夏秋渓流図屛風》だ。ねっとり濃密で写実的でありながら、どこかのっぺりとした渓流の流れる檜(ひのき)林の夏・秋の風景は、リアルなのに非現実的な異質な趣を放つ。エキセントリックともいえる不思議な世界は、静止しているようにも、いまなお動き増殖しそうにも。

まさに琳派の奇想といわれる其一の作品には、近世の個性的な水墨画作品が寄り添う。伝 俵屋宗達のユーモラスな《高士騎牛図》や、どこか脱力したゆるさを持つ海北友松の《鶴・鷺・呂洞賓図》の三幅対、鶏と梟の表情が人間的で楽しい狩野山雪の《梟鶏図》など、絢爛豪華な金屛風と墨の対照と併せて大胆、奇妙、へんてこ、楽しい個性の競演を味わえる。



ちなみに国の文化財指定の3件は、いずれも絵師たち40代の作。壮年期のみごとな力量がいかんなく発揮されている作品が揃っている点にも留意したい。
展示作品は18件。それでも見ごたえ、充実感は半端ではない。まさに圧倒的な輝きを放つ傑作3件とそれを彩る精鋭が織りなす重厚な3章。数を楽しむ展覧会も多いが、質にじっくりと向き合うのもまた贅沢な時間を提供してくれるだろう。
なお、2階の展示室5では能の「杜若」によせて、女面の数々がみられる。最小限の表情に、喜怒哀楽、老若、性格をとらえる彫りの技と表現も併せて堪能したい。
