先ほど紹介した「サントリー本」と「ライプツィヒ本」だが、じつはどちらも姫君の婚礼調度品として用いられていたというのだから驚きだ。グロテスクなシーンも多いこの絵巻が、なぜ婚礼の持ち物として選ばれたのだろうか?

その理由のひとつとして、徳川家康の娘・督姫(良正院)の存在があるという。良正院は元々小田原の北条氏直に嫁いでいたが、氏直亡き後は豊臣秀吉の仲介もあり、池田輝政のもとへと再嫁した。その際に所持していたのがサントリー本であるという。いっぽうのライプツィヒ本は、第10代将軍徳川家治の養女であった種姫の嫁入り道具であった。
どちらも「徳川家」の嫁入りに由来するものであり、その由緒正しさや、清和源氏の流れを汲むと主張する徳川家にとって、源頼光が活躍するこの絵巻はある意味都合が良いものであったのかもしれない。第3章では、関連作品や関係者の日記を通じて、このような考察がなされている。


現代においても様々な作品を通じて人気を博す「酒呑童子」のエピソード。鬼退治としての物語のみならず、いかにして同時は鬼となったのか。様々な角度から酒呑童子の「はじまり」に目を向けることができる展覧会となっている。
なお、公式図録には、今回出展が叶わなかった絵巻の画像データが全巻分掲載されている。貴重な資料となるため、会場ではぜひこちらにも注目してほしい。