同工房は、1977年に日本人として初めてドイツでオルガン製作のマイスター資格を得た須藤宏(1946~)により設立された。須藤は神奈川県三浦郡逗子町(現・逗子市)に生まれ、葉山町で育った。自身がクリスチャンであることから、幼少期よりオルガンの音色には親しみを持っていたという。1967年、須藤が21歳のときに辻オルガン製作所で初めて本格的なオルガン製作に携わった。その後71年にドイツへ渡り、アルビーツオルガン工房に勤務したのち、須藤が31歳になる77年にドイツでマイスター資格を得た。

オルガン製作のマイスター資格とは、後継者を育てる役目を持った「親方」として独立を許可されるもの。たんに技術力が高いだけでは取得できず、実技、専門理論、法律知識、職業教育の4つの試験に合格しなければならない。自身が務める工房の「親方」から技術を受け継いだ者がマイスター資格への挑戦者となるが、当初親方から話があったときも、須藤はあまり気乗りしなかったという。しかし結果的に、その挑戦過程で通ったマイスター試験準備講座での学びや、そこで出会った仲間が、須藤のキャリアに大きな影響を与えた。
マイスター資格取得後帰国した須藤は、自身のパイプオルガン専門工房を横須賀市根岸町に設立。その後西浦賀に移して現在も活動を続けている。同工房では、オルガンのデザイン、設計、各種の工作、組み立て、整音、調律にいたるまで、すべてを同工房内で完結させ、現在までに、日本各地のホールや教会のために20台を超えるオルガンを製作している。