また模型とともに、オルガンそのものやそれが設置されている空間の写真、それに対する須藤本人のコメントが掲示されているのも興味深い点である。例えば、同工房が初めて手がけた愛媛県松山市にある「聖カタリナホール」のオルガンについては、「仕上りは思うようでなく、送風も十分に安定しなかったため披露演奏会は辛い思いで聴くことになった。しかし、1999年に大規模な保守・改良作業を行い、後世に残せると思えるようになった。」といった、飾ることのない作家の生の声が書かれている。須藤という一人の作家の目線で、同工房が手がけた作品や空間を理解することができる稀有な機会となっている。さらにQRコードから、紹介されている一部のオルガンの実際の音源を聴くこともできる。

会場にはオルガンのパイプ配置図も展示されている。パイプの配置は実寸で図面におこし、実際に工作する際の型紙としても使用する。2005年以降は効率上CAD(コンピューター上で設計や製図を行うツール)を使用しているが、須藤は手描きの図面への未練についても言及しており、長年活動を続ける職人ならではの精緻な手仕事と、そこにかける熱意も窺える。

パイプオルガンは大多数にはあまりなじみがないかもしれないが、本展を通じて、同館のある横須賀で活躍を続ける須藤と、その工房の仕事について理解を深めることができるだろう。
なお、展示を記念してミュージアムコンサートが6月21日に開催されるため、オルガンの生の音も体感してみてほしい。