第2章「聖なる樹と山」
続く第2章「聖なる樹と山」では、天と地をつなぐもうひとつのモチーフとして、樹木と山に焦点が当てられている。中国古代には、東の果てにそびえる扶桑の樹に10個の太陽が宿り、日替わりで空へ昇っていくという神話があった。扶桑は「世界樹」の思想と通じるものであり、日々昇っては沈む太陽の運行は、死と再生の循環を象徴するものとされた。
また、西方には崑崙山がそびえ、死者の魂がそこを経て天界へ至ると信じられていた。これらの神話的な風景は、画像石や青銅鏡に文様として刻まれ、死者を祀る場を飾る意匠となっていまに伝わっている。

展示作品のひとつ、早稲田大学會津八一記念博物館所蔵の《武氏祠画像石(前石室第三石)》には、10羽の鳥が飛ぶ様子と、それを背負うように登場する扶桑の木の意匠が確認できる。また、木の枝が二股に分かれ、その中に鳥が1羽混じる意匠を持つ青銅鏡も紹介されており、扶桑の木が持つ象徴的な意味合いをうかがわせる。
こうした神話的モチーフは、たんなる装飾ではなく、死後の再生と天への到達という祈りを込めた図像として、古代の人々の思想を反映している。
第3章「鏡に映る宇宙」
古代中国において、天文の知識は暦の構成のみならず、吉凶を判断する術としても重要な役割を果たしていた。星座の動きや天体の運行は、国家や人々の生活に影響を及ぼす兆候としてとらえられ、その知識は文物の意匠にも投影された。

代表的な例が第3章「鏡に映る宇宙」で展示された《方格規矩四神鏡》である。円形の鏡に四角い枠が刻まれたこの鏡は、「天円地方」の世界観を体現しており、天地の象徴である「T」「L」「V」字文様のほか、東西南北を守護する四神(青龍・白虎・朱雀・玄武)が配置されている。これは、秩序ある宇宙の姿を鏡という一枚の円盤に凝縮したものであり、古代の人々が抱いていた宇宙観を視覚化するデザインといえる。

山本は、「これらの鏡は古代のプラネタリウムのような存在であり、星座や天体の秩序がもたらす再生の思想がそこに読み取れる」と述べている。また、「淳祐天文図」の拓本もあわせて展示されており、中国古代の天文知識の広がりと、それがいかに具体的な造形に反映されていったのかを知る手がかりとなっている。