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「死と再生の物語(ナラティヴ)」(泉屋博古館東京)開幕レポート。中国古代のデザインに見る死と再生の世界【3/4ページ】

第4章「西王母と七夕」

 展覧会後半は、中国古代神話に登場する女神・西王母を軸に、七夕伝説とその象徴的表現に迫る構成となっている。

 西王母は崑崙山に住まうとされた神秘的存在で、文献上では虎の歯をもち、髪を振り乱し、尻尾を備えた半人半獣の恐ろしい姿として記録されているが、漢代以降は吉祥の象徴として美しい女性像として描かれるようになった。とくに画像石や鏡の意匠、さらに近世の絵画などでは桃や仙薬を持つ姿が定着し、長寿や不老不死を象徴する画題として親しまれている。

第4章の展示風景より、左は《武梁祠第三石(西壁)》(原石:中国・後漢) 所蔵=早稲田大学會津八一記念博物館

 西王母はいっぽうで、死や疫病をも司る神であり、死と再生の二面性を併せ持つ存在とされる。そのような神格の拡がりのなかで、西王母の孫娘として登場する織女と、牛飼いである牽牛の物語が展開される。これが、日本でも知られる七夕伝説の起源である。

第4章の展示風景より

 第4章「西王母と七夕」の展示では、機織りをする織女の姿を表す文様や、不死の仙薬を搗く兎たちの意匠を備えた鏡などを通じて、農耕儀礼と結びついた七夕の信仰、さらには織物=宇宙創造のメタファーという思想にも触れながら、物語の背景にある世界観を紹介している。恋愛譚として伝えられてきた七夕だが、本来は宇宙観や死生観を内包した神話であることが浮かび上がってくる。

第4章の展示風景より、右は《月兎八稜鏡》(中国・中唐) 所蔵=泉屋博古館

第5章「神仙へのあこがれ、そして日本へ」

 中国古代における神仙信仰の広がりと、その思想が日本列島に与えた影響をテーマとする第5章「神仙へのあこがれ、そして日本へ」では、神獣鏡を中心に紹介が行われている。

第5章の展示風景より

 前漢末期から後漢期にかけて、社会不安が広がるなかで西王母への信仰が民間で急速に高まり、同時に不老不死の神仙へのあこがれも広がった。こうした背景のもと、鏡の背面に神話上の人物や仙人をあらわした「神獣鏡」が流行。西王母や東王公、伝説上の琴の名手である伯牙とその理解者・鍾子期など、象徴的な人物像が鏡面を飾っている。

 日本との関係では、『魏志倭人伝』にも記されるように、卑弥呼の魏への遣使と関連づけられる《三角縁神獣鏡》が知られており、日本列島各地の古墳から出土している。今回の展示では、泉屋博古館が所蔵する7面の三角縁神獣鏡を一挙公開。全点が揃う展示は極めて稀であり、本展の見どころのひとつとなっている。

第5章の展示風景より、三角縁神獣鏡の展示

 これらの鏡には、必ずしも中国鏡に見られるような明確な神話的構造は確認されないものの、仙人や神獣の図像が描かれており、古代日本における神仙思想の受容と展開を物語っている。さらに近年では、日本で独自に制作された模倣鏡である可能性も指摘されており、鏡を通じた文化交流のあり方や、信仰・権威の象徴としての機能が再考されている。

 山本は「三角縁神獣鏡は中国での出土例が確認されておらず、日本独自の展開とみられる。今回の展覧会では、魏・呉・蜀それぞれでつくられた鏡が揃い、三国巡りができる珍しい機会でもある」と語る。

第5章の展示風景より

編集部

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