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「あ!っと北斎~みて、みつけて、みえてくる浮世絵~」(すみだ北斎美術館)開幕レポート。“あ!”の驚きから始まる北斎の世界【3/4ページ】

 第2章「『あ!』っと、みつけて、みえてくる!」では、鑑賞者が自らの目で作品の「共通点」や「違い」を見つけ、最終的にはそこから新たな視点が「みえてくる」体験へとつながる構成となっている。複数の作品を比較しながら、浮世絵版画ならではの表現や構図、摺の技法についてより深く理解を促す展示内容となっており、初めて浮世絵に触れる来館者にもわかりやすく構成されている。

第2章「『あ!』っと、みつけて、みえてくる!」の展示風景より、左から《冨嶽三十六景 遠江山中》、《冨嶽三十六景 東都浅草本願寺》

 まず「共通点をみつける」視点からは、代表作《冨嶽三十六景 遠江山中》と《冨嶽三十六景 東都浅草本願寺》の2点が紹介されている。いずれの作品にも、画面手前に描かれた建物の大屋根と、遠景に配された富士山が、三角形の形状として繰り返されており、北斎が好んだ「△型の視覚的対比」が際立っている。

 続く「違いをみつける」部分では、浮世絵版画特有の“初摺”と“後摺”の違いに焦点を当てた展示が展開される。代表作《冨嶽三十六景 山下白雨》の初摺・後摺・変わり図の3点が比較展示され、版木の劣化や摺りの技術、さらには販売戦略に伴う改変など、版画ならではの特徴が浮き彫りにされている。

第2章「『あ!』っと、みつけて、みえてくる!」の展示風景より、《冨嶽三十六景 山下白雨》の初摺・後摺・変わり図の3点

 初摺とされるNo.78《山下白雨》では、輪郭線が極めて繊細で、空にはベロ藍を用いた丁寧なぼかし摺りが施されており、摺師の高い技術と絵師の意図が忠実に表現されている。これに対し、後摺であるNo.79では、版木の摩耗や工程の簡略化により、輪郭線が太く、空のぼかしも縮小されている様子が確認できる。

 さらにNo.80の「変わり図」では、空の色が青から黄色や緑に変更され、山裾には松林が追加されるなど、原図とは異なる表現が加えられている。これは、絵師が関与しない後摺の過程で、時代の趣向や市場の需要に応じて構図や配色が改変されることがあったことを示しており、浮世絵が印刷物として流通・消費されていた文化的側面を考察する手がかりとなっている。

第2章「『あ!』っと、みつけて、みえてくる!」の展示風景より、《冨嶽三十六景 山下白雨》の初摺・後摺・変わり図の3点

編集部

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