その続編にあたる「Return of the Phantom Lady(帰ってきたファントム レディ)」(2012)は、21点のカラー作品から成る。再び「ファントム レディ」が現代ムンバイの裏路地を駆け巡り、孤児の少女を救うために奔走する姿が描かれる。古びた映画館やカフェといったロケーションが物語を彩ると同時に、都市再開発によって変貌しつつあるムンバイの記憶を記録する試みでもある。


さらに「The Navarasa Suite(ナヴァラサ スイート)」は、インド古来の美学における9つの感情(ラサ)をテーマに、自身がそれぞれを演じたセルフポートレイト・シリーズである。プシュパマラは、1950〜60年代のインド映画黄金時代を象徴する写真家J H タッカーのスタジオで、3年の歳月をかけて本作を制作。バロック的な照明や過剰なポーズが、リアリズムよりもファンタジーや物語性に重きを置いたインドの写真史を想起させる。

展覧会全体を通して、一見ユーモラスで記号的な演出の裏に、インド社会におけるジェンダー、歴史、視覚文化の再編と批判的再解釈が深く潜んでいる。作品にはテキストやナレーションが一切なく、観る者に自由な解釈と物語創造の余地が委ねられている。プシュパマラは、「物語は必ずしもひとつではなく、写真の順番を変えればハッピーエンドにもバッドエンドにもなる。解釈の余白こそが重要」と語っている。