展示冒頭を飾るのは「いのり」だ。2011年に初めてその名を冠したインスタレーションを発表し、その後、空間に応じて柔軟にカタチを変えてきた「いのり」。本展では、道祖神などを描いた木炭画を周囲に配したこれまでにない構成となった。


戦後80年となる今年、注目すべきは「HIROSHIMA」シリーズだろう。9歳で終戦を迎えた伊藤は父親から戦争がもたらす惨状を聞き、それが深く心に刻まれたという。伊藤にとってライフワークとも言える同シリーズは、1972年に発表された「HIROSHIMAー骨」シリーズを出発点とし、「HIROSHIMAー土」シリーズへと展開していった。

矩形の「HIROSHIMA - 土」シリーズは、焼け爛れた広島の大地を切り取ったイメージとして制作されており、あるものには「HIROSHIMA」の文字、またあるものには「1945」の刻印や街路のような線、墓標にも焼けた木に見える針金が刺さる。一つひとつが異なる本シリーズは、それぞれが被爆した土の個々の記憶あるいは傷跡をいまに伝えるかのようだ。


