手と足は80年代以降、伊藤が繰り返し取り組んできたモチーフ。人間の能動的な動きを象徴する手、そして仏足石を参照した足。身体全体ではなく、その一部を象徴的に作品化することで、伊藤は人間と世界がつながる感覚そのものを造形化している。


展示の最後を締めくくるのは、「沈黙」「場」「ストーリー」などのシリーズを組み合わせたインスタレーションだ。「沈黙」シリーズは墳墓をイメージした固く閉ざされた印象を与えるもの。これに対応するように、祭事の空間をイメージした「場」を内包する「場」「ストーリー」シリーズや、古道具を使った「見立て」シリーズを置くことで、新たな空間が立ち上がる。


器・クラフト、陶による造形、油彩、木炭、布と糸のコラージュなど、ジャンルや素材、手法を超えて展開してきた伊藤。本展をたどることで、その創作を貫く精神、生活、社会に対する真摯な眼差しと出会うことができるだろう。
最後に伊藤の言葉を紹介したい。「やきものに収まらず、他の素材も取り入れて、思うままに制作している。全館を使う展示で、幅広い作品層になった。やきものを見る目ではなく、ちょっと違った目で見てもらえると楽しんでもらえるのではないか」。


