展覧会は4章構成。第1章「人生を描く」では、髪型や着物などを細やかに描き分けることで、女性の人生を見つめた松園の表現に焦点を当てる。会場の入口に展示している《青眉》(1934)は、母親への感謝の想いを込めて描かれた。松園は、自身の母への思いを次のように書いている。

母と私の二人きりの生活になると、母はなおいっそうの働きぶりをみせて、「お前は家のことをせいでもよい。一生懸命に絵をかきなされや」と言ってくれ、私が懸命になって絵をかいているのをみて、心ひそかにたのしんでいられた容子(ようす)である。私は、母のおかげで、生活の苦労を感じずに絵を生命とも杖ともして、それと闘えたのであった。私を生んだ母は、私の芸術までも生んでくれたのである。
──会場展示パネル、上村松園「母への追慕」『青抄』より
明治の女であった松園の母は、眉を剃り、お歯黒をしていたという。本作に描かれた美人も、その母と同じように、昭和の時代には失われてしまった古い時代の化粧をしている。ただの懐古ではなく、松園が自身の芸術の源泉と慕う母の面影が本作には投じられている。
《人生の花》(1899)は、結婚を迎える花嫁と先導する年配の女性を描いている。格式の高い黒装束をまとった花嫁の期待と不安が入り混じったような横顔と、凛と背筋を伸ばした年配女性の姿が対照的だ。その立ち姿に、それぞれの積み重ねてきた人生の時間が投影されている。本作は同様の構図のものが展示されており、それぞれの表情の差異や着物の柄を見比べても興味深い。なお、本作の図様は好評を博し、広告やマッチラベルなどにも使われたという。
