第3章「古典を描く」では、松園が古典芸能や古典文学を画題にした作品を展示している。
《草髪洗小町》(1937)は能の演目『草紙洗小町』に取材した作品。平安時代、古歌を盗作した疑惑をかけられた小野小町が、草紙を水で洗い流し、新しい炭で書かれたことを証明するというものだ。能面をつけたかのような女性の風貌や、感情を抑えながらも強い意志を感じさせる表情を楽しみたい。

円山・四条派の伝統に連なり、松園は《楊貴妃》のような中国の伝承もモチーフにした。本作の画題となったのは、絶世の美女と称えられた玄宗皇帝の后・楊貴妃が、後宮に入って初めての湯浴みを終えた場面だ。控えめな官能性をただよわせながらも、今後権力を握っていく楊貴妃の力強さも同時に描きこまれている。

第3章と4章のあいだには、小特集として松園の美人画ではない風景画を初めとする作品を紹介。本特集のなかでもとくに注目したいのは、松園が18歳頃に描いたと伝えられる初期作品《大原女之図》(1893)だ。松園の師・鈴木松年の兄弟である萬年が童を、松園が梅の束を頭に乗せた大原女を描いた珍しい合作であり、松園と鈴木派との関係性をうかがわせるものとなっている。
