第4章「暮らしを描く」は、松園が失われゆく風習を懐かしみつつ、人々の生活のなかにある日常を描いた作品を展示。
《舞支度》(1914)は出番を待つ舞手の娘と、囃し手の女性3人を描いた作品だ。舞手の娘の緊張した面持ちが、くつろいだ様子の囃し手3人と対比されており、当時の風俗における小さな感情がありありと描かれている。

《鼓の音》(1940)は真剣な眼差しでこれから鼓を打とうとする女性を描いた、松園の半身像の代表的作品。本作はニューヨーク万国博覧会にも出展しており、戦前の京都の風俗を伝えることとなった。張り詰めた空気もそのままに、現代に伝えている。

最後に、美人画に対する松園の心構えを伝える、次の文章を紹介したい。
私の美人画は、単にきれいな女の人を写実的に描くのではなく、写実は写実で重んじながらも、女性の美に対する理想やあこがれを描き出したい–という気持ちから、それを描いて来たのである。
──会場展示パネル、上村松園「棲霞軒雑記」「青眉抄」より
松園は女性日本画家の先駆けとして、その後、池田蕉園や島成園らが続く道を示した。松園が見つめ続けた女性たちの生き様が、かすかに、しかし確実に伝わってくる展覧会だ。