何が見られる?
開館記念展は、黒澤がキュレーションする「イシカワコレクション展:Hyperreal Echoes」。3年間の長期展示となっており、次回の岡山芸術交流に来る人々が、新たな展示を見られるサイクルを狙う。
黒澤は本展について、「私たちを囲む環境は大きく変化しており、現実と虚構が融解した時代だ。そうした時代背景をタイトルに込めた。作品との共鳴を感じ、各自が持ち帰っていただきたい」と語る。20作家による35作品が3フロアで展開される本展の主要な作品を見ていこう。

don't understand?》(2006/2008)
1階では、ベトナム戦争時にボートピープルとなった出自を持つヤン・ヴォーをはじめ、リアム・ギリック、フィリップ・パレーノ、マーティン・クリードらの作品を見ることができる。
エントランス部分に設置されたフィリップ・パレーノの《Marquee》(2014)は劇場や映画館の入口に見られる庇(ひさし)に着想を得たもので、これまで50以上のシリーズが制作されてきた。本来あるべき文字情報は空白になっており、複雑にプログラミングされた電球やネオン管が生き物のように明滅を繰り返す。旧式の照明器具と最新のコンピューター技術を融合させ、建築や時間の記憶を呼び起こす本作は、歴史を刻んできた建築のエントランスにこれ以上ないほどふさわしいと言える。

カラフルな風船で空間を埋め尽くすマーティン・クリードの《Work No. 1350: Half the air in a given space》(2012)は、与えられた空間の半分の空気を直径16インチ(40.6cm)の⾵船に詰め、空気という⽬に⾒えない存在を可視化するもの。鑑賞者は空間の中に入ることで空間認識が揺さぶられることだろう。

ヤン・ヴォーの《We The People (detail) Element #D3》(2011)は、アメリカ合衆国憲法前文の冒頭部分をタイトルにした彫刻のシリーズ作品。本作は、ヴォーは「自由の女神」の等身大模型をつくり、それを解体し、散逸させた一部。アメリカによる民主主義や自由が世界へと広がり、各国で発芽するというある種の理想を表すとともに、その暗部をも示唆するものだ。

同作の周囲には、ヴォーがオークションで手に入れた、ケネディ政権時代のホワイトハウス閣議室で使⽤されていた国防⻑官ロバート・マクナマラ所有のマホガニー製の椅⼦2脚をベースに、その機能性と元の形態が認識できない状態に変えたインスタレーション《Lot 20. Two Kennedy Administration Cabinet Room Chairs》(2013)が展示。また、マクナマラを中⼼としたフィクションと理論を融合させたリアム・ギリックの《McNamara》(1993)が連続性を見せる。