展覧会は、同館の開館記念展で初公開されたナウィン・ラワンチャイクンとジャン=ミシェル・オトニエルの作品から始まる。前者は、同館の前身である煉瓦倉庫を建設した実業家・福島藤助や、弘前の町の形成、美術館の開館準備に携わった様々な人の肖像を描いた大作であり、後者は地元を代表する産業であるりんごをイメージしてつくられたインスタレーションだ。


続く展示室では、藤井光による映像作品《建築 2020年》が鑑賞者を迎える。この作品は、かつて酒造工場として使われた建物が美術館へと生まれ変わる様子を記録したもの。展示の冒頭と終幕に同じ映像が配置されており、美術館の誕生という時間の円環構造を象徴的に示している。
歴史や家族の記憶を軸に、多様な表現手法で物語を紡ぐ小林エリカのインスタレーション《旅の終わりは恋するものの巡り逢い》は、弘前の旧陸軍第八師団の軍医であった祖父、弘前で生まれ育ち、「シャーロック・ホームズ」シリーズの翻訳を手がけた父、そしてその原作者であるコナン・ドイルという3人の人生が交錯する物語だ。フィクションとドキュメンタリーが織り交ぜられた本作は、美術館内の複数箇所に分散展示されており、鑑賞者は歩きながら物語を追体験することができる。

川内理香子は、刺繍、ドローイング、油彩といった異なるメディアを横断しながら、線による空間表現を追求してきた。本展では、自身最大となる新作刺繍作品を発表し、美術館の建築空間とも呼応する力強い存在感を放っている。

渡辺志桜里によるインスタレーションは、美術館全体を巡るチューブと水槽を通じて「外来種」という社会的な概念に問いを投げかける。展示されたビニールハウスでは稲の苗が育てられており、当初は特定外来生物に指定されるブルーギルの飼育が計画されていた。ブルーギルは戦後アメリカから持ち込まれた食用魚だが、現在は日本の生態系に影響を及ぼす存在とされ、飼育や展示には厳しい規制がある。いっぽうで、稲もまた大陸から伝来した外来種でありながら、日本の主食として受け入れられている。ブルーギルと稲という一見異なる対象に共通する「他者性」を通じて、日本の法制度や文化的受容のあり方が可視化されていく。

