さらに本展では、津軽地方で出土した縄文時代後期の土器や、この地域の女性たちによって受け継がれてきた刺繍技法「こぎん刺し」も紹介されている。いずれも現代美術とは時代も文脈も大きく異なる表現だが、それぞれの時代を生きた人々の創意と工夫が刻まれた、かけがえのない「手仕事」だと言える。木村館長は、「そうした新旧2つの表現を通じて、『アートとは何か』『表現とは何か』という問いを、津軽という土地を起点に、大きな時間軸のなかで見つめ直す場としたい」とその意図を明かしている。

縄文土器の文様に関しては、弘前大学の上條信彦の学術協力を得ており、北海道や沖縄など遠隔地でも類似の文様が見られることが明らかになっている。これは、縄文時代の人々が決して孤立した生活を営んでいたわけではなく、広範なネットワークを通じて他地域と交流していた可能性を示唆している。
また、本展では津軽地方で出土した弥生時代の土器も見どころのひとつだ。かつて考古学の世界では、「東北地方、とくに青森には弥生時代が存在しなかった」とされていた。しかし、近年の発見によりその定説は覆されている。本展では、津軽が有する独自の歴史に光を当てると同時に、地域に刻まれたもうひとつの時間軸を浮かび上がらせている。見慣れた歴史の構造を見直し、土地に刻まれた記憶を再発見するきっかけとなるだろう。

木村は「本展を通して、弘前、そして津軽という土地を、多様な視点から見つめ直し、さらにほかの土地へと想像を広げる契機としたい」と語る。展覧会タイトルにある「新しい生態系」とは、生物学的な循環のみならず、社会的なつながりや記憶の往還をも含意している。5年という節目を越えて、いかに新たな歴史を紡ぐことができるのか——その問いを来場者一人ひとりに託す展覧会となっている。