最後となる第5章「我を忘れたい」の会場では、デザイナーたちの多彩な表現による個性豊かな服の数々を展示。アレキサンダー・マックイーンのデジタルプリントで表現された爬虫類柄のドレス、ソマルタ(廣川玉枝)の肌のようなストッキング素材のボディウエア、ノワール・ケイ・ニノミヤ(二宮啓)の全身から触手が伸びたようなセットアップ、ロエベ(ジョナサン・アンダーソン)による唇型のアイコンが強烈なオフショルダードレスなどが並ぶ。洋服の可能性を迫力ある点数で感じることができるはずだ。

本章ではAKI INOMATAによる、自作したガラス製の殻にヤドカリを住まわせる作品「やどかりに『やど』をわたしてみる」シリーズも展示。ヤドカリが生きるためにまとう殻に意味や装飾性を付与する本シリーズは、人間にとっての衣服が、社会を生きるために不可欠な殻であることを想起させる。

展覧会の最後には原田裕規による「シャドーイング」シリーズを展示。CGで生成した、日系アメリカ人をモデルとした「デジタルヒューマン」が「ハワイ・ピジン英語」を操って物語を語り、原田はその声をシャドーイング(復唱)することで「声の重なり」をつくる。同時に、自身の表情をトラッキング(同期)させることで、「感情の重なり」を表現した。表情もまた、衣服のようにまとうものなのだろうか。人間の表情のなかにある、積み重ねられた歴史、文化、経験とは何か。本作はそれが衣服のメタファーにもなっているかのように問いかけてくる。

満を持しての東京展となった「LOVEファッション―私を着がえるとき」では、展示されている衣服それぞれのディティールを楽しむことができる。いっぽうで俯瞰的に、服飾が人間の行動や規範、思想を左右するほどの力を持っていることを、改めて意識させられる展覧会だ。