そして、続く5章で取り上げるのは、同展を開催しているこの「MIMOCA」だ。猪熊の生前にその理念のもと建てられたこの現代美術館は一体どのようなものなのか。そして、この建築設計を担当し、昨年末に逝去した谷口吉生(1937〜2024)とどのようなやりとりがあったのかについても紹介している。さらにエピローグでは、谷口によるMIMOCA建築が評価され、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の大規模リニューアルを手がけることとなった件についても触れられている。


このように本展は、猪熊を取り巻く様々なつくり手たちとの協働を、数多くの資料とともに一望できるものとなっている。そこから垣間見えるのは猪熊がつねに追求し続けた「生活のなかの美」の理念であり、「美しいものをつくりたい」という根源的な欲求が周縁のつくり手たちの本質をも刺激し、様々な領域とのコラボレーションが実現するに至ったのではないだろうか。そして、つねにその中心であり続けた猪熊弦一郎・文子夫妻の人間性までもが見えてくるのも、この展覧会のおもしろいポイントと言えるだろう。
余談だが、会場にはMIMOCA建築をはじめとする谷口吉生建築をより楽しむための「見どころMAP」が用意されている。かわいらしいイラストと非常にわかりやすい解説が掲載されているため、こちらを手に美術館内を回ってみることもおすすめしたい。
