浮世絵師発掘──歌麿、写楽、栄松斎長喜
第3章では、寛政期(1789~1801)に浮世絵界に進出した蔦重の活動を概観できる。喜多川歌麿、東洲斎写楽、栄松斎長喜といった名だたる絵師たちを発掘し、その魅力を最大限に生かした浮世絵を企画・出版した蔦重。
蔦重版の作品を特徴づけるのは、人物の顔を大胆にクローズアップした「大首絵」の構図だ。この手法により、歌麿はあらゆる年齢や階層の女性の心情を描き分け、写楽は歌舞伎役者の個性をとらえた。

例えば歌麿の《婦人相学十躰浮気之相》(重要文化財、1792〜93頃)は、最初期の美人大首絵。手ぬぐいを肩に掛けた風呂帰りの女性を描いたもの。

《婦女人相十品 ポッピンを吹く娘》(1792〜93頃)は、淡く光る雲母を摺り込んだ背景に、市松模様の華やかな着物の色の取り合わせが、町娘の華やかさをいっそう際立たせている。ポッピンというガラス細工のおもちゃを口にした町娘がふいに声をかけられ、ふり返えった瞬間をとらえた一作。

歌麿はこうした「大首絵」で、女性の顔や半身を大きくとらえ、その表情やしぐさで、その心持ちを余すところなく描き出した。