「浮世絵現代」(東京国立博物館)開幕レポート【5/5ページ】

 アントニー・ゴームリーの新作版画《RAPT》(2025)にも注目したい。ゴームリーは100枚の和紙一枚ずつに薄墨を刷毛で施し、にじませながら広げることで光あふれる開口部をつくり出した。そな開口部に、摺師が人物と地面の部分の版を摺っており、それぞれがユニークな作品となっている。和紙ごとに異なる墨のにじみ方に応じて見当をずらしながら摺る、という新たな手法が実践された作例。

展示風景より、アントニー・ゴームリー《RAPT》(2025)

 北斎や広重の風景画の中に見られる鮮やかなグラデーションの表現に注目した李禹煥は、伝統的な木版画の技術で、自らの代表的なシリーズ「Dialogue」を制作。摺師は一つの版を20度近く摺り重ねており、それによって絵画に匹敵する色の階調が表現されている。

展示風景より、李禹煥《Dialogue 1》《Dialogue 2》《Dialogue 3》(すべて2022)

 草間彌生の部屋は本展のハイライトだろう。草間は2014年に富士山の描画に初挑戦し、若い職人たちと木版画を制作した。このときつくられた「七色の富士」シリーズは、提出された試摺りのいずれをも草間が気に入ったことから七展開となったもの。本展ではその制作風景とともに、実際の版木を見ることができる貴重な機会だ。

展示風景より、草間彌生の部屋
展示風景より、草間彌生「七色の富士」シリーズ(2014)
「七色の富士」シリーズの版木
「七色の富士」シリーズの製作過程

 なお会場中心部では、木版画の製作過程を示す道具類も展示。多様な現代作家の作品とともに、彫師や摺師といった技術継承の重要さを示すものとなっている。東博で同時期開催の特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」とセットで鑑賞するのがおすすめだ。

展示風景より
展示風景より

編集部

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