昨今国際的な注目を集めている“現代アボリジナル・アート”が興隆したのは1970〜80年代のことであったが、当時女性は作家として認められず、制作現場の主なメンバーは男性で構成されていたという。そのいっぽうで、このアートに見られる制作手法や素材、テーマ性の豊かな広がり方は、女性作家らの貢献無くしては語ることができない。
例えば、ノンギルンガ・マラウィリは、オーストラリア北部にあるノーザンテリトリー準州アーネムランド地方の北東部出身。この地域に住む先住民をヨルングと呼び、13の氏族(クラン)が存在するうちの、マラウィリはマダルパ氏族に生まれた。木材が豊富に取れるこの地は樹皮画(バーク・ペインティング)が盛んな地域でもあり、各氏族が継承してきた伝統的な図像が描かれてきた。
しかし、この図像は元来男性しか継承することが許されず、担い手不足から女性へも権利が与えられるようになったのは近年のことだという。マラウィリもそのうちのひとりであり、画家であった夫から継承を受け、図像を描くようになった。作家は男性側に伝わるこの図像を尊重しつつも、自身の感性を表出させることで、次第に自由な表現が画面上に表していった。
このように、同展では作家による様々な時代の作品を展示することで、その経歴や思考の流れについても読み解くことができるよう工夫がなされている。


続く展示室では、のちに紹介するエミリー・カーマ・イングワリィとともに先住民作家として初めてヴェネチア・ビエンナーレのオーストラリア館代表に選ばれた、ジュディ・ワトソンによる作品が並ぶ。母方にアボリジナルの祖先を持つワトソンは貴重な水資源に恵まれた故郷を持ち、その環境が作家の作風にも影響を与えているという。

制作手法は絵画からマルチメディアまで多岐に渡るが、なかでもイギリス統治時代の公式文書を活用した《アボリジナルの血の優位性》(2005)は、アーカイヴ情報に紐づいた、とくにメッセージ性の強い作品だと言えるだろう。
