ヴィクトリア州北西部の街で育ち、メルボルンの一部を含む先住民コミュニティと協働して活動を行うマリィ・クラークは、ジュエリー製作からそのキャリアをスタートさせた。その後、伝統的な素材を用いながら現代の文脈でアプローチを行うその表現は、オーストラリア南東部に伝わる伝統文化をもととした《ポッサムスキン・クローク》(2020-21)のような作品から、顕微鏡写真を用いた《私を見つけましたね:目に見えないものが見える時》(2023)までと多岐にわたっている。
現在では、イギリスの同化政策によって失われたポッサムスキン・クローク文化の復興を目指す活動に参加し、制作活動と並行して研究にも注力しているという。



最後の展示室には、自由かつ豊かな筆致と色彩で描かれたマーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリによる大型作品が並べられている。カイアディルトと呼ばれる先住民コミュニティ出身で、故郷を強制移住させられた経験を持つ作家は、高齢者施設のワークショップに参加し、80歳より絵画制作をスタート。その後、91歳で生涯を終えるまでにおよそ2000点もの作品を残した。
ここで描かれているのは、記憶のなかに存在する、帰りたくても帰ることができない彼女の故郷の姿だ。徐々に大きくなるキャンバスは、郷愁の思いの強さゆえだろうか。


オーストラリアは日本の国土面積のおよそ20倍ほどあり、拠点によっても文化や言語体系、信仰が異なるのが特徴だ。それを踏まえて、出展作家の拠点も東西南北と広く取り上げることで、アボリジナル・アートの多様さ、そして各所で起こった歴史的な出来事を、女性作家の目線から掘り下げることを試みている。雄大な自然のなかで育まれてきた文化や信仰。どこか日本的な感覚とも結びつくようなこの糸口から、オーストラリアにおけるボリジナル・アートの“いま”に注目してほしい。
