「ルール」から「トーン」へ
自ら「方法論」を定め、それをもとにCMをつくり続けてきた佐藤は、90年代のとある段階から、視聴者を惹きつけるための世界観と、企業の目指すべきブランドイメージをともに実現するための「トーン」が重要であることに気づき、新たな表現へと移行し始める。
続く第2章では、湖池屋の「のり塩」「スコーン」NEC「バザールでござーる」JR東日本のCM・ポスター広告などの事例を取り上げながら、新たな「トーン」という方法論がどのように反映されているかを一つひとつ解説。アウトプットからは多種多様な表現が見受けられるものの、そこには共通の考え方が通底していることにも気づくことができる。

特段ものづくりについて関心があったわけではなかった佐藤が、なぜこのようなヒット作を生み出してきたのか。それには「作り方を作りたかった」と語る佐藤が自ら生み出した方法論が大きく関係していると言える。「どのコンテンツもいきなりものをつくらず、まずどのようにつくるかを考える。方法論を決めてからものをつくると、自分の想像を遥かに超えたものが生まれる。いわば方法論は、(ものづくりの)鉱脈とも言えるだろう」(佐藤)。
また、佐藤は「ポリンキー」や「バザールでござーる」、NHK教育テレビの『だんご3兄弟』などの生みの親でもある。印象的な音や独特な言い回しとともに、数多くのキャラクターを手がけてきたのにもかかわらず、当の本人はキャラクターは苦手なのだという。「伝えるために必要であった」結果、生み出されたキャラクターたちは、実際CMやテレビ番組を通じて視聴者に伝わり、いまなお我々の記憶のなかに刻み込まれている。


第3章ではその「トーン」という方法論がもたらした結果として、電通を退社した後に佐藤が手掛けたゲーム作品『I.Q.』も紹介されている。また、その横にあるDシアターは必見だ。ここでは『だんご3兄弟』の制作秘話と、その大ブームに巻き込まれた佐藤の苦悩が、映像と本人の言葉で語られている。

