「Keith Haring: Arching Lines 人をつなぐアーチ」(中村キース・ヘリング美術館)開幕レポート。彫刻作品からみるヘリングの公共性【6/7ページ】

 そして3つ目の空間は、「希望の展示室」。湾曲したかたちが印象的な、天高のある展示室となっている。ここでも様々な作品が展示されているが、特筆すべきはヘリングが実施してきた社会的なメッセージを込めたアートプロジェクトに関わる作品だろう。本展では、こうしたプロジェクトを、キース・ヘリング財団から寄贈を受け新収蔵することになったポスターや写真、映像資料を通じて紹介している。

展示風景より

 アートによる大衆とのコミュニケーションの可能性を信じていたヘリングは、なかでも子供たちとの関わりを大事にしたプロジェクトを多数手がけている。ヘリングにとって子供たちは、未来を体現する存在であり、インスピレーション源でもあった。

 自らが制作した、クイーンズ地区の子ども病院へ彫刻を寄贈するプロジェクト「ロング・アイランド・フォーカス・オン・アート1988」のためのポスター(1988)や「エイズ:真実で恐怖をなくそう 10代のためのガイド」のポスターが展示されるなか、一際目を引くのが、《マウント・サイナイ病院のための壁画》(1986)だ。本作は米国最大規模の病院であるニューヨークの「マウント・サイナイ病院」の小児病棟でアートセラピストを務めていたダイアン・ロードから依頼を受けて制作したもの。

 患者のために絵を描いてほしいという依頼から、85年から86年にかけての3度にわたる訪問のなかで、多くの子供たちに絵を描いた。本作は、最後の訪問の際に、病院の許可を得て小児病棟に描かれたもの。89年に小児病棟の建物の建て替えに伴い撤去され、30年以上にわたって人目に触れることなく大切に保管されていた、大変貴重なものだ。

展示風景より、《マウント・サイナイ病院のための壁画》(1986)

 アートに接続しづらい人にもアートを届けるためのアクションを大事にしていたヘリングの姿勢を、一貫して感じることができる。

編集部

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