墨蹟:書体に見る個性と活用の変遷
鎌倉時代には武家の台頭と相まって禅宗が隆盛し、禅僧も海を越えた交流が盛んになる。修行僧たちは高僧のもとへ参禅し、参禅修行の証や悟りに達したことを認める印可状として書を揮毫してもらい、大切に伝えてきた。寺院では高僧の説法を記したものや手紙まで墨蹟として尊重されるようになる。師からの証明書にとどまらず、修行を励ます言葉や訃報に接した惜別の情なども含まれる墨蹟は、それぞれの高僧たちの自由で大胆な筆跡にも、その人柄が偲ばれるだろう。


中国の僧・月江正印の墨蹟は、77歳と82歳のときのものが比較できる。重ねた年月が書にどんな変化をもたらしているのかを追えるのは興味深い。
