学びのあとに:楽しく素朴な「大津絵」でほっこり
本展と同時開催されるのが「大津絵 つくられ方・たのしみ方」。
京都と大津を結ぶ街道の土産物として親しまれた大津絵は、おそらくはある手本をもとに、大津の庶民が見よう見まねで描き継いだ民衆絵画だ。江戸初期には仏画が主だったが、やがて美人や若衆、さらには鬼や神仏をユーモラスに描くようになる。稚拙な風合いと風刺のきいた画題がなんとも言えない魅力を持つ。鉄道が敷設された明治時代に終焉を迎えるも、柳宗悦らがとなえた民藝運動などにより再評価され、当時の文化人に盛んに収集された。
同館の所蔵する大津絵がまとめて披露される初の展示は、大津絵を売る店先が描かれた屛風を端緒に、江戸から明治、大正、昭和とその享受のされ方の変遷を追う。


主要な画題が集められた貼交屛風は、大津絵のなかでもよく描けている優品揃いといえる。
落とした太鼓を必死で釣り上げようとする雷神、どこかへろっとした藤娘や矢の根五郎などの歌舞伎絵、「鬼の耳に念仏」を逆手に取った殊勝な鬼の姿など、思わず吹き出してしまう脱力感だ。しかし、きちんと表装され、初代・根津嘉一郎が茶会の寄付で作品を用いたエピソードなどは、高僧の墨蹟の扱いとも呼応するかもしれない。


ちなみに、先に開催された「国宝・燕子花図と藤花図、夏秋渓流図」と本展、そして次に予定されている「唐絵」展の3つの展覧会を見ると、根津美術館が所蔵する7点の国宝のうち6点を制覇できるとのこと。さて、残り1点はなにか? これは次回「唐絵」展を見てからのお楽しみに。