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「高畑勲展─日本のアニメーションを作った男。」(麻布台ヒルズ ギャラリー)開幕レポート。「火垂るの墓」は反戦映画ではないと語った高畑の哲学とは【4/5ページ】

 そしてチャプター3「日本文化への眼差しー過去と現在との対話」では、映画「じゃりン子チエ」(1981)「セロ弾きのゴーシュ」(1982)以降の、日本を舞台にした作品に特化していた時期を取り上げる。ちょうどこの時期の、1985年にはスタジオジブリの設立に参画している。そこで生まれたのが、「火垂るの墓」(1988)「おもひでぽろぽろ」(1991)「平成合戦ぽんぽこ」(1994)という日本の現代史に注目した作品群だ。日本人の戦中・戦後の経験や、「里山」という日本の自然やそれにまつわる文化・風土に着目した作品が誕生した。

展示風景より

 本展のメインビジュアルに使われている「火垂るの墓」という作品は、野坂昭如の小説が原作となっているが、高畑は自ら脚本も手がけている。高畑は、この主人公清太に現在の子供を重ね合わせ、未来に起こるかもしれない戦争に対して想像力を養う物語に仕立て直すことをねらいとしていた。原作にはない、幽霊と化した兄妹が現在の日本を見つめるシーンを加えるといったシナリオは、そういったねらいをもとにつくられた。

展示風景より、「火垂るの墓」のレイアウト

 また本展の目玉のひとつと言えるのが、この「火垂るの墓」のセクションで紹介されている、庵野秀明が担当した「火垂るの墓」のカットである「重巡洋艦摩耶(まや)」のハーモニーセルだろう。じつはこの展覧会の開催が決まったタイミングで偶然にも発見されたものとなっており、本展で初公開されている。

展示風景より

 「平成合戦ぽんぽこ」のセクションでは、百瀬義行と大塚伸治による大量のタヌキのイメージボードが印象的だが、やはり本作においても高畑の綿密なリサーチが行われている。タヌキの生態、日本人とタヌキの関わりを示す民俗や文化、さらにはタヌキが棲息する多摩丘陵の里山の保護活動までをまとめた「たぬき通信」と題した企画ノートを高畑は執筆している。本作は、宅地造成によって住処をなくしたタヌキたちの抵抗の物語であるが、これは実際に多摩丘陵で起きた現実のことで、のちに高畑は「この映画は記録映画だと思っている」と語っている。

展示風景より

編集部

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