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「高畑勲展─日本のアニメーションを作った男。」(麻布台ヒルズ ギャラリー)開幕レポート。「火垂るの墓」は反戦映画ではないと語った高畑の哲学とは【5/5ページ】

 最後のチャプター4「スケッチの躍動ー新たなアニメーションへの挑戦」では、高畑が90年代に挑戦した、人物と背景が一体化したアニメーションの新しい表現スタイルに着目する。その模索の成果は「ホーホケキョ となりの山田くん」(1999)と「かぐや姫の物語」(2013)に結実する。

展示風景より

 会場では、高畑にとって最後の作品となった「かぐや姫の物語」の制作風景を撮った動画が流れている。そのなかで高畑は、手振り身振りでキャラクターの動きを説明する。制作過程で、均一で綺麗すぎる線に整えられてしまうアニメーションらしいアニメーションが嫌いだったと話す高畑は、線そのものが躍動する美しさを残すための新しい表現を探求。あえて背景も塗り残しをつくることで、人間の想像力が働く余白を生み出した。自らが築いてきた表現を、さらに乗り越え続けるその姿勢を、一貫して感じることができる展示となっている。

 太平洋戦争から80年という節目であることから、「火垂るの墓」に注目しつつ、高畑の作家人生を紐解く本展。「火垂るの墓」に関しては、生前高畑は反戦映画ではないと説明していたという。たんなる唯一解を提示するだけの作品をつくってきたわけではないという高畑の哲学が、そんな言葉からも感じられる。

 高畑の長男・高畑耕介いわく、「高畑作品は、主人公からあえて距離をとりありのままを描き出すことで、人としての弱さや善悪が同居する人間像にむしろリアルが宿り、人々の共感を生んできた」。改めて、高畑の制作にかける思いや哲学を知ったうえで、作品を通して我々一人ひとりの生き方を考えるきっかけとしたい。

編集部

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