毒山凡太朗は、土地やモニュメントが持つ複雑な歴史を様々な視点から取り上げてきた。本展には映像や平面作品を出展しているが、なかでも注目したいのは、《令和之桜》(2020)だろう。
本作は、日本画家・小早川秋聲の代表作である《國之楯》(1968)をモチーフにしたものだ。従軍画家として戦地に幾度も赴いてきた小早川は、いわゆる「戦争画」のひとつとして《國之楯》を制作した。本作は当初、《軍神》(1944)という名前で発表され、その背景には一面の桜が描かれていたが、依頼した陸軍は受け取りを拒否。戦後、小早川が《國之楯》として改めて発表した際には桜が塗りつぶされていたことが知られている。毒山は発表当初の《軍神》で使われた画材と描法を可能な限り再現し、同様の図柄を制作。そのうえで、背景を塗りつぶすのではなく、人物の側を塗りぶすことで作品《令和之桜》を完成させた。小早川に本作を改変させた歴史的背景、そして小早川の心情と実際の作品の変化を、ひとつの平面において並列させた作品といえる。

記憶をテーマにした作品制作を続けてきた曺徳鉉(チョウ・ドクヒュン)の《二十世紀 追憶》(1996)は、被爆50年の節目に「ヒロシマ」をテーマとして委託され、制作された作品だ。原爆被害者の肖像が明滅するライトによって照らし出され、それと向かい合う箱のなかには血液の染み込んだキャンバスが納められている。制作から30年近いときが経とうとしているいま、本作の受け取り方がどのように変化したのか、考えてみるのもいいだろう。
