ニュージーランド・アオテアロア在住のフィオナ・アムンゼンは、長崎出身の家族を持ちニュージーランドで活動する落語家・鹿鳴家英志と《An Ordinary Life》を制作。原爆投下時に少年だった鹿鳴家祖父の幽霊と想像上の対話を繰り広げる映像作品《An Ordinary Life》を障子に投影した。本作には落語の手法が用いられており、孫と祖父それぞれが共有する「はし」についての思い出を話に折り込みながら、記憶の接続が表現されている。

フィオナ・アムンゼンは2024年に広島を訪れ、原爆によって被爆した木々(被爆衛木)を被写体にした新たなシリーズに取り組み始めた。写真を現像する際には、海藻から採取した成分でつくられる現像液が使われているが、これは、海藻には海洋を循環する放射性物質が蓄積しやすいとされるためだ。できあがったイメージには原因不明の「霞み」が発生しており、これは直接的に放射性物質の影響ではないものの、見えざる影響がイメージに与える影響を間接的に物語る。

被爆体験に向き合い続けた画家・殿敷侃(1942〜1992)は、父母を原爆で亡くしたこと、そして自身の被爆体験と向き合ってきた作家だ。被爆現場の近くで拾ったヘルメットとレンガを終生アトリエに置いて制作に取り組み続けたことで知られており、本展ではヘルメットやレンガとともにシルクスクリーン作品が展示される。

いっぽうで殿敷は80年代後半以降、大都市と地方との不均衡、そして環境破壊など、現代社会に目を向けた表現へと向かっていく。会場で展示されている《山口一日本海一二位ノ浜、お好み焼き》(1987)は、海岸に漂着するゴミを集め、焼き固めて巨大なオブジェをつくるプロジェクトにおいて生み出されたものだ。本作はその制作プロセスそのものが作品ともいえるが、いっぽうで「お好み焼き」という広島の名物をタイトルに据えていることにも注目したい。本プロジェクトは被爆と向き合ってきた殿敷が、文明から生まれた焼塊という存在をつくることで、広島の原爆被害の悲劇と現代社会の負の生産物を結びつけようとしたものと考えられるだろう。
